文:深海家13代目 深海宗佑
今回、どういった経緯や想いでArita Diningを実施したか綴らせていただきます。
2022/1/25にPinox水野シェフにお声がけいただき、2022/3/25に開催したArita Dining。
結果、参加者の皆様、ご協力窯元の皆様、スタッフ一同皆が大興奮で終了しました。
内容は3パートで構成
①九州陶磁文化館ツアー(1日目午前)
有田焼誕生~現代までの歴史と変遷を知る博物館ツアー
※②参加者参加特典
②フレンチ@深海商店(1日目午後)
呉須・釉薬という有田焼の色を生み出す弊社の工場で佐賀の料理をフレンチテイストで有田焼の器に盛り付けお食事
※窯元さんとシェフ解説付き
③窯元巡り(2日目終日)
ランチの想い出を長く大切にしていただくために、器を提供してくださった窯元さんの工房へのご訪問。
ランチで使った器も購入可能で、さらに奥深く有田焼とその器の魅力を語っていただく
※②参加者参加特典
通常②の器と料理のイベントはたくさんあります。Arita Diningも話をいただいた時は②だけの予定でした。
しかし、有田焼の成り立ちや現代までの流れの背景をご理解いただくツアーも入れる必要性を強く感じました。
理由としては、今、目の前にある器は、
先人達の努力と閃きと工夫により江戸初期から受け継がれてきた物である。
そして、それが現在にどう活かされているかを感じていただきたかったのです。
さらに、伝統は変化しないものではなく、
常に時代や顧客の変化に合わせて絶えざる変化を続けてきた結果、
存続してきたものだという伝統産業のダイナミズムを感じていただきたかったのです。
有田焼の長い歴史の中では、
・製造工程に世界初のイノベーションを起こし、
・デザイン様式を一変させ、
・海外輸出に挑戦し、
・製造道具の仕組みさえも全く別物に変える
等どの時代においても完全な停滞はないのです。
それを理解した上で目の前に出された器を見たらどれだけ感動するでしょうか。
器と料理だけのイベントとは全く違うのです。
さらに、その美術品や器も
江戸時代に初めて磁器を天皇陛下に献上し今でも宮中御用達の
辻精磁社さん @tsujiseijisha
世界中の星付きのレストランや世界的ブランドと取引されている
李荘窯さん @riso_porcelain
畑萬陶苑さん @hataman_touen
有田焼産業を盛り上げるために東京の巨大広告代理店を辞め2拠点生活をする同級生
岩尾玄樹さん @iwao_genki
による熱い想いが込められたものなのです。
そして、お食事の翌日にはその方々の器を作る想いを現場でしっかりと聞けるのです。
この体験を通して有田焼のファンになってもらえると思います。
人生の中ですごく想い出深い体験になるのではないかと思います。
こんな想いを込めて今回のArita Diningは開催しました。
そして、全てがパズルをはめるかの様にうまくいきました。
その結果、参加者だけでなく関係者含めて満足いただけたんだと思います。
まだまだ、有田焼産業は存亡の崖っぷちにありますが、
今後も自分の持てる全てを活かしながら全力で走り続けたいと思います。
全ては有田焼産業の存続と繁栄のために。
ところで、共同主催者のPinox水野シェフのイベントの感想が、
シェフを突き詰められたからこその内容で素晴らしかったので、ご共有いたします。
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脈(読み)みゃく
筋をなして連なり続くもの。
連なり続くさま。
例えば400年前の話を聞くとする。
遠い昔のことで、自分の先祖がその時代にどう生きたなんて想像する人は少ない。ただただ、昔のことだなぁと思うのが一般的だと思う。
間違いなくそこには、自分と血が繋がっている人が居たのだけれど。
私達料理人は、先人たちの知恵を土台として料理を作る。
その料理の知恵は、先人たちの挑戦の結果(もしくは偶然の産物)だ。
伝統と革新は、一見分かれている様に見えるが、大きな視野で見ればそれはとても些細な事だ。
そして、今を生きる私達の挑戦の結果が、未来の誰かの料理の礎となる。
以前、佐賀県武雄市にて大きなイベントをさせていただいた。最終日の撤収時間を出来るだけ早めて欲しいとのことで、私達はとても急いだ。
理由は、「深海宗伝没後400年の記念碑の除幕式のため」と伝えられた。
疲れた体に鞭を打ち、通常よりも急いで撤収作業をした頭の中は「深海宗伝、、」と反芻していた。
コロナの中で流行ったコンテンツの一つに、紹介制音声SNS(クラブハウス)という物があった。比較的早い段階で友人に勧められて参加した。そこで繋がった人の中に、深海さんが居た。
深海宗伝の子孫なんです、という事実を知ってとても驚いた。
前述の話をしたら、大変恐縮され「うちの先祖がすみません」という時代を超えた言葉に親近感を覚えた。
毎年開催していた、大阪にあるフレンチの名店「エヴォリュエ」さんとのコラボイベントを数年ぶりに開催する話が出た。
せっかくなら、九州内でその地域の文化と共に開催したい。
東京から、実家がある有田にUターンして地域に貢献したいと言っていた深海さんに連絡をし、一緒にやりませんか?と声を掛けさせていただいた。
一度の話し合いで、おおよその概要が決定した。
深海さんの会社「深海商店」の工場内に1日だけのレストランを作り、窯元さんの器を使用した食事のイベント。
深海さんにご尽力いただき、とても素晴らしい窯元さん達と繋がることができて、またその甲斐があり大きく告知をすることなく予定していた30席はすぐに満席となった。
集客に翻弄するのが有料のイベントの悩みなのだけれど、有田焼というコンテンツの力を改めて感じた。
以下が当日のメニュー。
1佐賀ヴァリエ 緒方シェフ
有明海の海苔とサーモン サーモンムースとイクラ
玄海イカ ブーダンノワール 神崎そうめんのガレット
丸ぼうろ 白レバームース トリュフの香り
春一番と桜海老のタルト ミモレットのラぺ
聖護院生八つ橋とフォワグラとりんご
2冷製アスパラガスジュレと唐津のウニ、麦と貝のエキスのリゾット、発酵させたふきのとうの酸味、ブロッコリーの花蕾 ミズノ
3佐賀郷土料理 のっぺい汁 エヴォリュエスタイルで 緒方シェフ
4藁で香りを付けた大きな魚の薪焼き、春サザエの肝と焦がした発酵バターのソース、煮詰めただけのトマトのピュレ、ハーブのオイルを染み込ませた柑橘を絞って。ミズノ
5佐賀ジビエ 棚田米のデクネリゾン 春野菜 緒方シェフ
6脆いメレンゲと柑橘のピュレ、枝付き巨峰とマールのスープ ミズノ
エヴォリュエの緒方シェフのしっかりとした大きな土台の上で僕は大いに遊ばせていただきました。
翌日の打ち上げ。
窯元さん達と向かい合う形で座らせていただき、李荘窯の寺内さん、辻精磁社の辻さん、畑萬陶苑の畑石さん。
彼らもそれぞれ、先祖の技術を受け継いでいる。
私達料理人も、受け継いではいるものの、その多くは「どこの誰だか知らない人」からによるものだ。(もちろん高名な方も多数いらっしゃるが)
なので特にプレッシャーもない。
例えば、牛ヒレのパイ包み焼きも、牛ヒレの中にパイを入れて焼いても(意味はないが)特に怒られはしない。
しかし、伝統を受け継ぐ彼らは違う。
(ここで私の勝手な解釈で誤解を与えるのは本心ではないので、打ち上げで話した内容は控える)
ただ私が感じたのは、彼らの中にある「脈」の存在だ。
血が通った、脈。 連なり続く様。
計り知れない葛藤があり、情熱を絶やさず、次の世代を意識しつつ、自らの表現も行う。
もちろん、窯元さんだけではなく、深海さんもそうだ。
有田焼の礎を築いた子孫として、400年の歴史を受け継ぐ。
なんと壮大な話だろうか。
器は風化しない。
料理は一瞬で消えてしまう。
この2つの物が、共存しないと成り立たないという事実。
文化の共存。それらを体験していただくこの「ARITA DINING」を今後も続けていきたい。
また、関わっていただいた多くの方、そして当日お越しいただいたゲストの方々に、最大限の感謝を。
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〈お料理 / Menu〉
1.オードブル / Hors d’oeuvre
Chef – Evoluer 緒方龍人シェフ / Ryujin Ogata
Dish – 深海商店見本皿 / Fukaumi Shoten’s Glaze Sample Dishes
Cuisine – 佐賀ヴァリエ / Variety Food of Saga Ingredient
2.オードブル / Hors d’oeuvre
Chef – Pinox 水野健児シェフ / Kenji Mizuno
Potter – 李荘窯業所 / Riso Porcelain
Cuisine – リゾット / Risotto
3.スープ / Soup
Chef – Evoluer 緒方龍人シェフ / Ryujin Ogata
Potter – 畑萬陶苑 / Hataman Toen
Cuisine – のっぺい汁 / Simmered Meat and Vegetables with Soup
4.魚 / Fish
Chef – Pinox 水野健児シェフ / Kenji Mizuno
Potter – 岩尾玄樹 / Genki Iwao
Cuisine – 魚の薪焼き / Wood-fired Fish
5.肉 / Meat
Chef – Evoluer 緒方龍人シェフ / Ryujin Ogata
Potter – 李荘窯業所 / Riso Porcelain
Cuisine – 佐賀ジビエ / Saga Gibier
6.デザート / Dessert
Chef – Pinox 水野健児シェフ / Kenji Mizuno
Potter – 畑萬陶苑 / Hataman Toen
Cuisine – 巨峰 / Grape
Special Thanks to All
〈シェフ / Chef〉
Pinox 水野健児シェフ / Kenji Mizuno @pinoxitoshima
Evoluer 緒方龍人シェフ / Ryujin Ogata
〈ご協力窯元 / Tableware Donater〉
李荘窯業所様 / Riso Porcelain @riso_porcelain
辻精磁社様 / Tsuji Seijisha @tsujiseijisha
畑萬陶苑様 / Hataman Toen @hataman_touen
岩尾玄樹様 / Genki Iwao @iwao_genki