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有田焼原料採石企業視察記


主に有田窯業界の若手12名で、焼き物の生地の原料を掘っている熊本県天草市の採石企業様2社を視察しました。

有田焼原料採石地の天草への移転

1616年に金ヶ江三兵衛が有田に移り住み、1630年頃に有田の泉山磁石場を発見したと言われています。
この泉山磁石場が見つかった事が、有田が磁器の発祥地となった大きな要因です。
江戸末期から明治にかけて徐々に有田焼の原料である陶石は有田町の泉山から熊本県の天草市に移行しています。
現在では9割以上の有田焼が熊本県の天草市の鉱山から採石されています。

ちなみに、天草陶石は平賀源内が「天下無双の上品に御座候」という位の随一の品質で、
有田のみならず国内の色んな磁器の生産地に配送されています。

天草市の採石業界の業況

素材業である採石業界は、陶磁器の生産量と売上が連動します。
生産量ではなく、出荷額の統計ですが、主たる陶石の利用先である有田焼の製造品等出荷額は、
ピーク時の413億円(1991年)から125億円(2015年)まで70%減少しています。

有田焼産業が厳しい状況にあるのと連動し採石会社の経営状況も限界が見え隠れしています。
※国外への販路開拓や陶芸用以外への素材活用を行っておられる企業もあります。

以前は天草市内に9社あった鉱山の採石会社も現在では3社まで縮小。そして、高齢化。採用難。

電波も入らない僻地で夏の炎天下・冬の極寒の中での作業は困難を極めます。面白みもある一方、この様な条件下で薄給で働いてくださる方は限られます。

さらに、大規模太陽光発電の開発時に山林が伐採され、土砂崩れが起きています。
そのせいで、採石に関する目はより一層厳しく、手足を縛られたような状況で経営をせざるを得ません。

それでも窯業界を守るために、石の販売価格は出来るだけ抑え、最終消費者である方のお手元に届きやすくしてくださっています。

この天草の採石会社が経営を続けられなくなると、窯業界の全業種が瞬時に干上がります。
採石に求められる専門知識と経験

さて、山で石を掘るというと、アナログでスキルが必要なさそうに思われる方もおられますが、決してそうではありません。高い専門性と経験が求められます。
陶石を掘るときに無造作に掘っているわけではないのです。

これは2つの理由があります。

陶石等級の見極め

1つ目は、等級(陶石内の鉄分含有量の差)分けです。
陶石には鉄分の含有量によって等級が4つに分けられています。
1等石…Fe 0.3~0.5%
2等石…Fe 0.5~0.7%
3等石…Fe 0.7~0.9%
4等石…Fe 1.0%前後

なぜ、鉄分含有量によって等級が分かれるかというと、鉄分含有量と磁器の白さが反比例するからです。

つまり、鉄分が少ないほど磁器は白く、鉄分が多いと磁器は青黒くなります。
(豆知識:青磁は鉄分による着色)

なので、等級によって選別する必要性があります。

まず、採石段階でもおおよその等級を分けた上で採石し、
石を洗浄し、最後に、出荷前に等級を改めて選別されています。

洗浄と出荷前選別は、職人さん達が石1つ1つを丁寧に目視しながら手作業で選別されています。

また、選別はトン単位で運搬される膨大な石を一時保管できる屋外で行われます。

酷暑の日に汗だくになりながら、極寒の日に手がかじかみながらでも、野外で選別しなければならないのです。

室内で仕事してる時にさえ暑い・寒いといっている自分はなんて恵まれている環境で仕事をしているのだろうかと痛感します。

ちなみに、この業務はAIや機械によるオートメーション化は採算が合わない事も含めて出来ません。

陶石の耐火度の見極め

2つ目は、耐火度(陶石の溶けやすさ)の違いです。

耐火度が違う石が混在した中で商品を作ると同じ形が作れません。
結果、歩留まり率が悪くなりクレームに至ります。

順を追って説明します。

陶石が採石されてから複数の工程を経て磁器は形作られます。

最後に1300℃程度で焼成するのですが、その際に歪みやすい物とそうでない物があります(焼成変形)。

歪みやすい物(溶けやすい)は耐火度が低い、
歪みにくい物(溶けにくい)は耐火度が高いと言われます。

この差は陶石に含まれる元素成分の差です。

どんな長年の職人さんが見ても、目では石の耐火度の違いは分かりません。
分類のためには、採石する前に山肌を数m間隔で試掘をし、取れた石の成分を分析されています。

なので、それに基づいて採石しなければならず、無造作に採石する事は出来ません。

ですから、職人さんの専門知識と長年の経験を借りるしかないのです。

そういった状況でも石の販売価格は安く抑えていただいているのです。

ちなみに、山を掘る・採石すると言うと反SDGsみたいに聞こえますが、
1回で廃棄する紙皿よりも、何年も大切に使用される焼き物の方が環境負担は小さいです。

なので、自然の恵みを使わせていただく我々窯業界でできるSDGsは、
できる限りの環境負荷を抑えながらも、
作らないという選択肢を取るのではなく、
すぐに飽きられる物ではなく、
永年愛用される物を生み出すこと
だと思います。

この文章が少しでも多くの人の目に触れて、採石業界への理解が進めばなと思います。

採石会社の方々にお繋ぎいただいた香田陶土( @kodatoudo )さんに深く感謝いたします。

※一般の方の鉱山見学はリスクと人的リソースの観点でやむなくお断りされておられます。
鉱山視察のご連絡はお控えください。

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